
「カフェ・コモンズ」について宮地剛 (NPO法人・日本スローワーク協会 代表理事)
店内の窓からは、摂津富田の町並みや、遠く枚方や京都の山並みを眺望することができ、夜になると素晴らしい夜景を楽しむことができます。業態は、カフェ・居酒屋・バーが混合したもので、お昼はランチ、午後はコーヒーやスイーツ、夜はピザや一品料理、ビール・ワイン・焼酎などを楽しむお客様でにぎわっています。 でも、どうしてNPOがカフェを開店し経営していこうとしているのでしょうか?以下に、カフェ・コモンズがどんな店なのかを、いくつかのトピックを紹介していくことで、私たちがカフェ・コモンズの経営と運営を通して、なにを実現しようとしているのかを報告していきたいと思います。 内装
といった方々やNPO・NGO団体の協力によって作られています。
「NPO法人ふくてっく」は大阪市に本拠のあるNPO法人で、「福祉と住環境を考える」をテーマに活動されています。多くの一級建築士や工業デザイナーや介護士、福祉関係者が参加され、高齢者や障害者の方々が暮らしやすい住居というテーマをもとに、建築や住居を考え直し、より共生的な住環境を実現していこうとされています。具体的な活動としては、高齢者向けバリアフリーの住宅改修や福祉用具の開発などを行われています。カフェ・コモンズの基礎施工には、「ふくてっく」の住宅改修部の部長である畑俊治氏、と施工会員である大和建設の立溝和行氏が、カフェ・コモンズの理念に共鳴し協力してくださいました。
カフェ・コモンズの内装の居心地のよさ、暖かさは、このような多くの人々の参加による「セルフメイド=手作り」が醸し出していると言えるでしょう。 石窯と木質ペレット![]() ストローベイルと並ぶカフェ・コモンズの象徴に、石窯があります。石窯も、ストローベイルと同様に、多くの人々の協力によって作られました。 設計・施工管理 竹下晃朗 石窯研究会竹下晃朗氏は、京都・修学院在住の84歳の石窯研究家です。現役時代エンジニアであった竹下氏は、独自の理論で、パン焼き用の石窯と製パン理論の普及活動をされています。竹下氏の製パン理論は、地域で栽培された有機栽培・無農薬栽培の小麦粉を使い、その小麦粉を「練らない」で作ったパン生地を、300度という高温で焼成するという点に特徴があります。この製法は、小麦の風味そのものを殺さないという点で、機械で練り添加物を大量に使用することを前提とした現在の製パン技術とは、まったく違うものです。 竹下氏は日本全国で数多くの石窯を設計されていますが、私たちの理念を伝えると石窯の設計を快諾してくださいました。石窯の実際の組み立ては、耐火レンガや珪藻土レンガをひとつひとつ積み上げていって行いました。その作業にも、精神科医を目指す医学生や引きこもりの若者たちが参加してくださいました。 また石窯の燃焼原料には、高槻の森林組合が製造している木質ペレットを使用しています。木質ペレットは、間伐材や廃材を粉砕しペレット状に凝固したバイオマスエネルギーで、CO2を排出しないオルタナティブ・エネルギーとして注目されています。確かに木質ペレットも燃焼するとCO2を排出するのですが、樹木は生長過程でCO2を吸収して光合成を行うので、CO2の収支がゼロである、つまりCO2を増やさないというエネルギーとして注目されています。 開かれたプロジェクトとしてのカフェ・コモンズストローベイルと石窯という二つの作成過程が表すように、カフェ・コモンズは、日本スローワーク協会の単独事業であると同時に、多くの人間や団体・組織に「開かれたプロジェクト」として実現した、ということもできるでしょう。この「開かれたプロジェクト」という特性は、内装や石窯作成だけではなく、企画段階から運営段階にいたるまで、多くの外部団体・組織や市民・学生との協力によって実現してきたという意味で、カフェ・コモンズの大きな特徴といえます。 次に、運営や経営方針を見ることで、「開かれたプロジェクト」としてのカフェ・コモンズが何を実現しようとしているのかについて触れていきたいと思います。 運営とスタッフ開店後の運営には、多くの若者たちが参加してくれています。そのほとんどが福祉や環境問題やフェアトレードに興味を持っている若者です。そのなかで、引きこもりやニートの当事者であった2人の若者が、厨房やホールのスタッフとなっています。彼らは支援対象としてではなく、ともに働くスタッフとして運営には欠かせない戦力として働いています。 カフェ・コモンズの基本的な考えとしては、引きこもりやニートの若者を「支援対象を必要としている社会的弱者」としてではなく、ともに働くひとりの人間、つまり他のスタッフと同じ位置にいる者として捉えるということにあります。また、店長やマネージャーと他のスタッフとの関係もフラットであることを目指しています。つまり、店長やマネージャー・スタッフというそれぞれの「ポジション(役職)」によって形成される運営組織ではなく、ひとりひとりが様々な興味と価値観を持っている「自分とは違う人間」と向き合っているという関係性を前提にした運営組織の形成を目指しているのです。そこはスタッフも、店長やマネージャーに直接意見が言うことができ批判することもできる対等で平等な協働の場です。 オープン・キッチンカフェ・コモンズでは、04年12月からキッチンを地域の市民に開放して、営業を行っていただいています。具体的には、火曜日から木曜日までの3日間のランチタイムの営業を、将来カフェを開きたい夢を持っている若い女性と中年の男性のチームに委託しています。チームとコモンズとの関係は、双務契約によって成り立っており、それぞれが経済的に成り立つような関係作りを目指しています。このようにカフェ・コモンズは、キッチンスペースを開放することで、「開かれたプロジェクト」としての運営を実現しています。将来的には、全ての営業時間を開放し、様々な市民や団体が、カフェ・コモンズの運営に参加してくださるようになることを実現したいと考えています。 イベントの開催カフェ・コモンズでは、現在まで数多くのイベント(ワークショップやシンポジウム、ライブなど)を開催しています。今後は、若手落語家による定期的な落語会や、学生主催による福祉やフェアトレード、地域通貨に関するイベントの開催も企画されています。また地元商店組合に参加することで、共同のイベント開催も検討されています。この点で重要なのは、イベントを企画・開催するのは、カフェ・コモンズではなく、スローデザイン研究会やふくてっく、スロービジネススクールというような外部団体であるということです。つまりカフェ・コモンズは市民や地域住民、NPOや市民団体へ開かれた空間であると同時に、情報発信スペースとして機能しています。また様々なイベントを開催することで、様々な市民やNPO・NGOなどのネットワークが形成されていく拠点となることを目指しています。 地域通貨の受け入れ
カフェ・コモンズは、このような地域通貨を受け入れることで、地域通貨循環の拠点となることを目指しています。そして地域通貨の循環と、様々な事業やNPO・NGO、市民とを結びつけることで、自律的循環経済に基づいたコミュニティの形成を目指しています。 経営の方針カフェ・コモンズは、NPOが経営する「様々な社会的ミッション」を持ったカフェです。しかしこれまでのNPO経営のカフェにありがちなように「よいことをしているからサービス内容は問わない」というビジネスではなく、通常のビジネスとしての経営を目指しています。カフェのお客様にとって、私たちが「社会的に良い事」をしているかどうかは関係ありません。お客様が求めるのは、よい商品とサービスの提供です。つまり「よりよい商品とサービスの提供」を前提とした競争力のあるビジネスを目指しているということです。このことは、社会的ミッションの実現を目指したNPO活動を、「助成金」と「無償ボランティアという労働力」に依存した活動ではなく、そこで働く人々が「結婚して子供を育てる」というフツーの生活が実現できるような活動、つまりコミュニティビジネスとして転回させていきたい、という理念の現れです。 また、カフェ・コモンズの開店資金・運営資金は、助成金や高額の寄付金はよっていません。ほとんどの資金が、実際に働く者の資金提供と長期借入金によっています。実際に融資を受けたファイナンスへの返済は予定通り進めています。このことも、NPO活動を、「社会的ミッション」を実現するための経済的な活動へ転回していこうという理念の現れです。 以上のようにカフェ・コモンズには実に様々な要素が含まれています。この多様さは、日本スローワーク協会が目指している「オルタナティブな社会」がどのようなものであるのかということの現われだといえるでしょう。その意味で、カフェ・コモンズは、日本スローワーク協会が掲げる理念を実現するための「実験室」と言ってもよいと思います。 |
||||||||||||||